樹の根元が異常に膨らんでいるけど大丈夫?

 一般的にイメージする樹木は枝や葉があり、根元に近づくほど幹が太くなり、そして末広がりに土の中に根をのばします。しかし、時には写真のようなイメージと違う樹木を見かけることがあります。これは島根県出雲市内のソメイヨシノです。周囲は舗装されています。一見形は通常の樹のイメージとは違います。だからといって、さほど問題だと思う方は少ないかもしれません。しかし、このような樹木は問題を抱えていることが多くあります。場合によっては人命に関わる大問題を起こしかねないこともあります。

 この樹木のような状態は、何が原因でどんな問題が考えらえるでしょうか。実際に掘ったり叩いたりはできませんので、予想の範囲を越えませんが、詳しく見ていきましょう。

考えられる原因は

 通常の樹木が、綺麗に末広がりとなり土中に根を張り巡らせるのは、それが、最も効率的に生育できるからです。しかし、何らかの原因によりこのような生育ができない場合は、無理をしてでも、生育に必要な整理活動を維持しようとします。その結果、樹木の形が通常と異なる変化を生じるのです。
 まず、樹木の根はそもそも何のために必要なのでしょうか。それはもちろん水を吸い上げるためです。同時に自身の体を支えます。樹木が水を効率的に吸い上げるためには、土中深く四方八方に根を広げて、なるべく広い範囲で、そして、夏場でも水が枯渇しない程度の深さまで張り巡らせる必要があります。
 しかし、この樹の場合は、一生懸命深く根を伸ばそうと頑張っても、根を下に広げることを制限されているため、仕方なく小さな範囲で拡大成長してしまっています。その制限とは、非常に硬い土壌や酸素欠乏した土壌の場合です。周囲はアスファルトで覆われているため、基本的には万年酸素不足です。根は呼吸をしているため、細胞が活きていくためには酸素が必要不可欠です。だからこそ、淀んだ沼に根をはやすのことは通常できないのです。
 また、この樹が立っている場所は土壌ですが、その下は根がはやせない程固い土壌の可能性が高いです。舗装の時に締め固められた場合、その場所に植栽すると固結土の上に樹を置いたような形になります。最初はわずかな土壌でも育っても、徐々に体が大きくなると、より多くの水分が必要となります。小さな植木鉢に植えられて何十年も育てらえた樹をイメージしていただくと分かりますが、植木鉢の中は太く育った根でギッシリとなってしまいます。
 行き場のない根部はその場で太く膨らみます。写真のような根元の膨らみは、固結土が原因でこのようになったのかもしれません。

起り得る問題は

 このように根元が膨らんだ樹は、単に見た目が変わっているだけではありません。今後問題が起きる可能性が非常に高くなります。写真をみると、根が綺麗に真っすぐ外に伸びているのではなく、右に行ったり左に行ったりとうねったようになっています。そして、いくつかの根が一つに合体しているように見えます。これは太くなると木の根同士が合体してしまっている増す。そうすると、根と根が擦れて傷ができます。この傷から菌類が侵入して、根部を徐々に腐朽させてしまします。このような菌類を腐朽菌と呼びます。樹木は倒木すると腐朽菌が分解して土壌に戻してくれます。森林の木はそうやって生態系の一つを担っているのです。よって、腐朽菌そのものは悪いとは言いませんが、樹木を活かそうとしたときには天敵となります。
 この腐朽菌は傷口から侵入します。人間の傷を負うとすぐに殺菌消毒します。それは傷口から菌が侵入しやすいからです。つまり、このような状態の樹は、根部にいつでも菌類が侵入する入口をたくさん用意している状態となっているのです。
 腐朽菌が入っても外から見ても分かりませんが、根の中では徐々に腐朽が広がり、そのうち子実体であるキノコが発生します。そうなったら全体に菌類が回っているので、時すでに遅しです。また、割れた肌には害虫が卵を産みやすくなります。害虫は幹に穴を開けて中で過ごすことで外敵から身を守ります。その様な生態系としては良い循環なのですが、やはり、人間の身近にある樹が被害を受けると困ります。
 最も問題なのは、このような樹が菌類や害虫の被害にあった時に、いつ倒木するか分からないということです。上述したように、ただでさえ、根が土中に伸びることができなかったからこのような無理な形をしています。つまり、ただでさえ、風の影響や雪の影響から樹が倒れないように強い根が期待できない訳です。その上に、害虫などの被害を受けたら、簡単に倒木してしまう可能性が高いのです。倒木によりたまたま近くにいた住民や通行人に被害を与える場合があることを考えると、このような樹が抱える問題は非常に大きいと言わざるを得ません。

被害への対処

 予想される事態は深刻です。このような樹木は今すぐに問題が起きるかもしれませんが、起きないかもしれません。それは調査して見なければ分かりません。しかし、通行量が多い場所や、近くに民家がある場所など、万一の場合の被害が大きいと予想される場合は、危険木とみなして撤去することも必要です。
 このような樹を何らかの処置により健全な生長にもどすことは不可能です。よって、切除や支柱による補強など、被害が大きくならないような処置でしか対処できません。つねに、問題が起きていないかを専門家が定期的に調査することで、問題が起きる前に適切な対処ができる体制を取っておくことが最も重要となります。
 また、一般の方は、何気なく通行している街路樹のがこのように大きな問題を抱えていることは全く知りません。しかし、このような樹は珍しくありません。逆によく見ます。よって、危険木の情報を少しでも多く発信して、通行人自ら危険を避ける行動をすることも大切です。特に、台風の時やその翌日、積雪の日や強風の日は、気をつけなければなりません。


【参考資料】
花木・鑑賞緑化樹木の病害虫診断図鑑 第Ⅱ巻 害虫編 竹内浩二 近岡一郎 堀江博道
一般財団法人農林産業研究所 2020.9.11

樹木医必携・応用編 小林享夫 坂本功 一般社団法人日本樹木医会 2010.3.31

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