サルノコシカケで枯れた!その後に木を植える時の注意点とは?

 大切な庭木にキノコが生えた。よく見るとサルノコシカケ。樹木にキノコが出ていたら危険信号です。とくにサルノコシカケは庭木を枯死させてしまい、倒木の危険性が高い症状です。詳しくは他のブログ「樹にサルノコシカケがあるけど問題ない?」を参考ください。
 
 さて、今回は残念ながらサルノコシカケが発生してしまい、今後のことを考えて泣く泣く庭木を抜根された方からのご質問です。新しい庭木を植える場合、同じ場所だと問題があるでしょうか。また、植える時に対処するべきことはあるでしょうかという内容です。

 確かに、サルノコシカケは菌類です。一旦取り除いても菌類がまた新しい庭木に侵入したら困ります。かといって、一生庭木を植えられない場所になるのも問題です。このような時、どんな点に気をつけて植栽するといいのでしょうか。このことについて解説していきます。
 まずは、サルノコシカケを代表する菌類のこと、次に新しい庭木を植えるための方法を見ていきましょう。

サルノコシカケはどんな菌類

 庭木の枯枝や傷口から菌類が侵入して、腐れを起こすことを材質腐朽病と言います。材質腐朽病の原因となる菌類を木材腐朽菌と呼びます。木材腐朽菌はたくさんの種類があり、サルノコシカケもこの木材腐朽菌の一種です。
 木材腐朽菌は、木材の主成分であるセルロース、ヘミセルロース、およびリグニンなどを分解し、その強度を低下させます。これは庭木にとっては死活問題です。なぜなら、庭木の体のほとんどはセルロース、ヘミセルロース、リグニンでできているからです。庭木を鉄筋コンクリートのビルに例えてみると、セルロースが鉄筋、リグニンがコンクリート、ヘミセルロースがそれらをつなぐ針金の役割をしています。つまり、いずれも体を支えるために必要不可欠な存在です。それが分解されたら崩壊してしまいます。
 そして、分解された成分により白色腐朽菌と褐色腐朽菌に大きく分けられます。白色腐朽菌は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンを分解しますが、その中で、特にリグニンを分解します。腐朽に伴って材は白色化していきます。一方、褐色腐朽菌は、セルロース、ヘミセルロースを分解しますが、リグニンの分解能力は低いです。このため材いリグニンが残り、腐朽材は褐色になります。褐色腐朽菌は材の強度を急速に低下させますが、白色腐朽菌による材強度の低下は徐々に起こる場合が多いです。また、白色腐朽は広葉樹材の腐朽で多く、褐色腐朽は針葉樹材の腐朽に多く見られます。
 このように、サルノコシカケを代表する木材腐朽菌は非常に恐ろしい結果を招く菌類なのです。

緑化樹木腐朽病害ハンドブックより

 

樹木医必携基礎編より

病気の発生条件

 病気の発生には、3つの要素が必要であると言われています。それは、「主因」「素因」「誘因」です。 「主因」とは病原体の存在そのものをいいます。「素因」とは、遺伝的にその病原体に侵されやすい庭木をいいます。「誘因」とは、病気を成立させるような各種の環境条件をいいます。つまり、病気の元となる菌類が存在し、たまたま感受性の高い庭木に接触し、そこは湿度が高く、風通しの悪いところであったら、病気が発生するということです。逆に言えば、いずれかの条件がなければ病気が発生しなかったということになります。
 庭木は種類によってかかりやすい病気が決まっています。よく庭木の名前がそのままついた病名がありますが、それは、その庭木特有の病気だからです。例えばシイタケはシイノキに生えるキノコが始まりですから、シイタケと呼ばれています。実際はブナ科の樹木を分解しています。どんな樹木でもシイタケができるのではないように、特定の庭木に特定の病気が発生するのです。シイタケは食用としてのイメージが強いですが、庭木にとっては木材腐朽菌の一つで、体を分解する存在なのです。
 上記を踏まえると、病気の発生を防ぐには、「主因」である病原体となる菌類の存在を無くすこと。「素因」である感受性の高い庭木を植えないこと。「誘因」である悪い環境にならないよう、風通しのよい場所にすることが重要となります。

樹木医必携基礎編より

「主因」を取り除く

 「主因」である病原体を取り除けば病気を起こすことはなくなります。今回の場合だとサルノコシカケの病原体を駆除すれば、新しく庭木を植えても病気にならないということになります。では、菌類はどのようにして庭木に侵入しているのでしょうか。
 幹腐朽や枝腐朽を起こす種類は、胞子が空気中を飛散し、幹や枝にできた傷や枯死部分で発芽し、樹幹や枝内に侵入します。枝や根株から侵入する種類も子実体(きのこ)を地上、または樹上でつくり、胞子が空気中を飛散後、何らかの形で、土壌中の根や幹の傷や、枯死部分から侵入します。また、菌糸で土壌中を広がるケースも見られます。菌糸とは、菌類の体を構成するもので、糸状の構造です。落ち葉をめくると白い糸状の物が良く見られますが、それこそ落葉を分解している菌類そのものであり、菌糸と呼ばれます。菌糸が広がって隣りの木に病気がうつることがあるのです。
 サルノコシカケの「主因」はこの菌類の胞子や菌糸であることが分かりました。では、胞子や菌糸を取り除くにはどうしたらいいでしょうか。
 まずは物理的な方法として、土壌の入替です。植えてあった場所の土壌を一旦撤去して、新たに汚染されていない土壌を客土します。そうすれば、新たな土壌には胞子も菌糸も存在しませんので、安全に植栽ができることとなります。とはいえ、どのくらいの範囲で土壌を入れ替えたらいいのでしょうか。胞子も菌糸も面積からするとかなり広い範囲に広がっていると想像できます。菌糸は原理的には無限に成長すると考えられており、目で確認するのも困難ですから、土壌の入れ替えはどこまでやれば良いかという結論は出せそうにありません。土壌の入れ替えは金額も結構かかりますので、その点においても検討が必要です。また、サルノコシカケが出てしまった庭木が大きなものであれば、その根も広範囲に広がっているはずです。根を全て取り除くこともかなり困難でしょう。ある程度の土壌の入れ替えは有効ですが、完璧にするのは到底難しいと言えます。
 また、化学的な方法として、土壌中の病原菌を駆除する薬剤を使用する方法があります。例えば、クロルピクリン燻蒸剤は、土壌中でガス化して、土壌に行きわたらせることで、土壌中の病原菌、害虫、センチュウ類、一年草雑草を同時に防除できます。ただし、他の庭木が近隣にあると使えないのと、劇物のため取り扱いには注意が必要です。通常の庭だと近くに庭木があると思われますので、現実的に利用できる場所は少ないかもしれません。その様な時はベンレート水和剤などの普通物殺菌剤を使用して、土中に染み込ませる方法も検討してみてください。
 その他、病原菌は庭木の傷口から侵入しやすくなりますので、庭木剪定して傷口ができたら殺菌消毒するのも効果的です。青森県弘前市の弘前公園では、寿命を超えた桜が元気に育っていますが、その裏では定期的な殺菌消毒などのメンテナンスで支えています。

「素因」を避ける

 「素因」を避けるには、その病気に感受性が高い庭木以外を選ぶ必要があります。例えば、ナシの赤星病はさび病菌が原因ですが、ビャクシン類から胞子がナシに飛散し、ナシ葉上に精子器を形成することで広がります。よって、ナシの近くにビャクシン類を植栽しないことで、病原菌の拡大を防げます。
 今回はサルノコシカケですので、病原菌としては担子菌類のサルノコシカケ科に属します。前述のように種類が多く、また罹病する樹種も多いため、この庭木なら大丈夫とは言い難いところがあります。よって、「素因」を避ける方法は難しいかもしれません。

「誘因」を避ける

 「誘因」を避けるには、庭木が健全に育つ環境に植栽する。もしくは、その環境にあった庭木を植栽する必要があります。まず、土壌は基本的に保水性、排水性、通気性に優れた環境がよいでしょう。詳しくは別のブログ「庭木にはどんな土がよいですか?」をご参考ください。
 また、太陽光も重要です。太陽光が好きな植物と比較的暗い方が好きな植物があります。その点を見極めましょう。同時に風通しにも配慮しましょう。風通しが悪いと病原菌が繁茂しやすくなります。定期的に剪定をすることで風通しを良くしておきましょう。
 このように庭木の環境はある程度は人が変えることができます。しかし気温や強風などはコントロールするのが難しいですね。その場合は、現在の環境に適する庭木を選定するのがよいでしょう。環境に適するとは、問題なく育つことができるという意味で考えるといいと思います。この点については、ある程度の知識が必要ですので、近くの専門家に相談するといいでしょう。

まとめ

 サルノコシカケにより枯死した庭木を撤去処分したあとに、庭木を植える場合の注意点は、次の通りとなります。
 ・枯れた庭木の根はできるだけ撤去して焼却処分する。
 ・可能な限り既存の土壌を新しい土壌に入れ替える
 ・土中を殺菌消毒する。
 ・庭木を剪定したら殺菌消毒する。
 相手が目に見えない菌類ですので、完全に防除しようと思えばきりがないでしょう。よって、できる限りの対策しかできませんが、見える範囲での根の取り除きや土壌の殺菌消毒は最低限しておきたいものです。また、剪定道具のハサミは使用前に消毒するなどの基本的なことは必ず実行しましょう。


 【参考資料】
・樹木医必携・基礎編 小林享夫 坂本功 一般社団法人日本樹木医会 2010.3.31
・樹木医必携・応用編 小林享夫 坂本功 一般社団法人日本樹木医会 2010.3.31
・花木・鑑賞緑化樹木の病害虫診断図鑑 第Ⅰ巻 病害編 編著堀江博道
共同編集安部恭久/柿嶌 眞/金子繁/佐藤幸生/周藤靖雄/竹内 純/星 秀男 
                                 一般財団法人農林産業研究所 2020.9.11
・緑化樹木腐朽病害ハンドブック 上島重二 社団法人ゴルファーの緑化促進協力会 2007.8.20

庭木の樹勢診断について詳しくは【タケダ樹木クリニック】までお問い合わせください。

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